引き継ぎ資料を作ろうと思っても、何を書けばよいのかわからない。
作業手順をまとめたつもりでも、後任者から次々と質問される。
そんな経験はないでしょうか。
実は、引き継ぎ資料で大切なのは、作業の順番だけではありません。
その仕事は何のために行うのか。誰が、いつ、何を作り、誰に渡すのか。
こうした仕事の全体像がわからなければ、
後任者は手順どおりに作業できても、想定外のことが起きたときに判断できません。
私は25年以上、企業の業務プロセス改革(BPR)に携わってきました。
その中で感じていたのは、
大企業であっても、業務の目的や流れが十分に整理されていないことが多いという問題です。
こうした業務の整理に、ChatGPTを活用できます。
この記事では、
ChatGPTを使って仕事の目的や流れを整理し、
後任者が自分で判断して仕事を進められる引き継ぎ資料を作る3つのステップを紹介します。
実際に使えるプロンプトと具体例を交えながら、一緒に考えていきましょう。
引き継ぎ資料で大切なのは、手順だけでなく仕事の目的を伝えること

引き継ぎ資料というと、作業手順を詳しく書くことに意識が向きがちです。
もちろん、手順は必要です。
しかし、それだけでは十分とはいえません。
例えば、引き継ぎ資料に次のように書かれていたとします。
「毎週金曜日に売上データを集計し、報告書を作成する」
作業内容はわかります。
でも、これだけでは疑問が残ります。
- 何のために売上を集計するのか
- どのデータを使い、いつまでに作成するのか
- 完成した報告書を誰に渡すのか
- 数値に問題が見つかったら、どう対応するのか
こうした情報がなければ、後任者は決められた手順をなぞることしかできません。
業務の目的がわからないと、判断できない
私は25年以上、企業の業務プロセス改革(BPR)に携わってきました。
その中で何度も経験したのが、業務の目的や全体像を調べ直す作業です。
大企業であっても、業務マニュアルに作業手順は書かれているのに、
何のために行う仕事なのか、最終的に誰へ何を渡すのかが明確になっていないことが少なくありませんでした。
そのため、改革を始める前に関係者へ確認し、仕事の流れを一つずつ整理する必要がありました。
この調査に、かなりの工数を費やしたものです。
そこで実感したのは、作業の手順を知っていることと、仕事を理解していることは違うということでした。
仕事の目的がわかっていれば、状況が変わったときにも、何を優先すべきか考えられます。
引き継ぎでも同じです。
大切なのは、前任者と同じ作業ができるようになることだけではありません。
後任者が仕事の目的と全体像を理解し、状況に応じて考えられるようにすることです。
そのために、まずは業務の目的と、仕事の入口から出口までを整理していきましょう。
ステップ① 業務の目的と、仕事の入口から出口までを整理する

引き継ぎ資料を作る最初のステップは、業務の全体像を整理することです。
いきなりChatGPTに「引き継ぎ資料を作って」と頼むのではなく、
まず自分が担当している仕事について、わかっていることを書き出してみましょう。
この段階では、きれいな文章にする必要はありません。
箇条書きでも、思いつく順番でも構いません。
ChatGPTに整理を手伝ってもらいながら、抜けている情報を見つけていきます。
なお、会社の業務情報を入力する際は、社内のAI利用ルールを確認してください。
以下の例では、架空の業務を使用します。
まず「何のための仕事か」を明らかにする
最初に確認したいのは、業務の目的です。
例えば、「毎週、売上集計表を作る」という仕事があったとします。
この仕事の目的は、集計表を完成させることでしょうか。
そうではありません。
集計した数字を使って、売上の進捗を確認したり、
問題があれば対応を考えたりすることが本来の目的かもしれません。
目的が違えば、必要な情報や集計方法も変わってきます。
まずは、自分が担当している業務について、次のようにChatGPTへ入力してみます。
ChatGPTへのプロンプト例
私が担当している業務の引き継ぎ資料を作りたいと考えています。
業務内容は「毎週金曜日に売上データを集計し、報告書を作成すること」です。
まず、この業務の目的を明確にしたいので、確認すべきことを質問してください。
目的を勝手に決めつけず、私の回答をもとに整理してください。
ChatGPTの質問例
- 集計した売上データは、誰が利用していますか?
- その人は、何を確認するために報告書を使っていますか?
- 報告書を見て、どのような判断や行動をしていますか?
- この集計を行わなかった場合、何に困りますか?
こうした質問に答えることで、
普段は意識していなかった仕事の目的が見えてくることがあります。
ここで大切なのは、
AIが目的を決めるのではなく、質問を通して、自分が理解している仕事の目的を言葉にすることです。
自分でも目的を説明できない場合は、上司や関係者に確認する必要があります。
ChatGPTとの対話は、その確認すべきことを見つける助けにもなります。
誰が・いつ・何を作り・誰に渡すかを整理する
目的が明らかになったら、次は仕事の流れを整理します。
ここでは、作業手順を細かく書く前に、次の項目を確認します。
- 目的: 何のために行う仕事か
- タイミング: いつ、どのようなきっかけで始めるか
- 担当者: 誰が行うか
- 入力情報: どこから、どのような情報を受け取るか
- 作業内容: 何を、どのように処理するか
- 成果物: 最終的に何を作るか
- 受け渡し先: 誰に、どのような方法で渡すか
仕事には、何らかの始まりと終わりがあります。
必要な情報を受け取り、作業を行い、成果物を次の人へ渡す。
このつながりが見えると、自分の担当業務が全体のどこに位置しているのかも理解しやすくなります。
ChatGPTには、次のように依頼できます。
ChatGPTへのプロンプト例
次の業務について、引き継ぎに必要な情報を整理してください。
業務:毎週金曜日に売上データを集計し、営業マネージャーへ報告する。
目的は、売上の進捗を確認し、必要な対応を判断するためです。
「目的・タイミング・担当者・入力情報・作業内容・成果物・受け渡し先」の7項目で表にまとめてください。
情報が不足している項目は推測で埋めず、「要確認」としてください。
最後に、私が追加で確認すべきことを質問してください。
ChatGPTの出力例
| 項目 | 整理した内容 |
|---|---|
| 目的 | 売上の進捗を確認し、必要な対応を判断する |
| タイミング | 毎週金曜日 |
| 担当者 | 要確認 |
| 入力情報 | 売上データ(取得元は要確認) |
| 作業内容 | 売上データを集計する |
| 成果物 | 売上報告書(形式は要確認) |
| 受け渡し先 | 営業マネージャー(共有方法は要確認) |
これは架空の業務を使った出力イメージです。
注目したいのは、「要確認」と書かれた部分です。
普段、自分が当たり前のように行っている仕事でも、
改めて整理すると説明できないことが見つかるものです。
例えば、売上データの取得元は知っていても、
データが更新されるタイミングまでは把握していないかもしれません。
また、報告書の提出先は知っていても、その後どのように使われているかは知らないこともあります。
こうした疑問を一つずつ確認することで、引き継ぐべき情報が明確になっていきます。
ChatGPTの役割は、知らない業務情報を作り出すことではなく、
知っていることと、まだ確認が必要なことを整理することです。
業務の目的と入口から出口までが見えてきたら、次は後任者が迷いそうな場面を探していきましょう。
業務を整理するときは、
作業を一つずつ見るだけでなく、人・情報・成果物のつながりを捉えることも大切です。
AIを使って、こうしたつながりから全体像を考える方法は、以下の記事で紹介しています。

ステップ② 後任者の立場で抜け漏れを確認する

業務の全体像が整理できたら、次は作業中に必要となる判断や対応を確認します。
自分にとって当たり前のことでも、初めて担当する人にはわからないことがあります。
例えば、売上集計業務なら、
どのデータを使い、どこに報告するかがわかっていても、それだけでは十分とは限りません。
データに誤りがあったらどうするのか。
報告期限に間に合わない場合は、誰に連絡するのか。
こうした場面で迷わないようにすることも、引き継ぎの大切な役割です。
ChatGPTを使って、普段は意識していない判断基準や注意点を洗い出していきましょう。
後任者が迷いそうな場面を洗い出す
長く担当している仕事ほど、判断や対応が習慣になっています。
「この場合は、あの人に確認する」
「この数字がおかしいときは、元データを調べる」
本人には当然のことでも、後任者には伝わっていないかもしれません。
そこで、ChatGPTに後任者の立場で質問してもらいます。
ChatGPTへのプロンプト例
あなたは、これから私の業務を引き継ぐ後任者です。
業務の目的と全体像は、次のとおりです。
【ここにステップ①で整理した内容を貼り付ける】
この業務を初めて担当する立場から、わからないことや、判断に迷いそうなことを質問してください。
特に、作業上の注意点、判断基準、例外的な対応、関係者との連携について確認してください。
一度に質問するのは3つまでにして、私の回答を受けて次の質問をしてください。
業務の実態がわからない部分は推測せず、質問として提示してください。
ChatGPTの質問例
- 売上データに空欄や異常な数値があった場合、どうすればよいですか?
- 集計結果が前週と大きく違う場合、確認する必要がありますか?
- 報告書の提出期限に間に合わない場合、誰に連絡すればよいですか?
この質問に答えていくと、
普段は意識していなかった仕事の進め方が、少しずつ言葉になっていきます。
答えられない質問があっても構いません。
それは、引き継ぎまでに確認しておくべきことが見つかったということです。
判断基準・例外対応・確認先を明確にする
質問によって見つかった情報は、そのままにせず整理しましょう。
例えば、売上集計業務について、担当者が次のように回答したとします。
前週と比べて売上が大きく変わった場合は、元データを確認しています。
それでも理由がわからなければ、営業マネージャーに相談します
ここで、もう一歩考えてみます。
「大きく変わった」とは、どの程度でしょうか。
人によって判断が違えば、後任者は迷ってしまいます。
数値による基準があるなら明記する。
明確な基準がないなら、どのような観点で確認するのかを整理する。
こうして判断の根拠を明らかにしていきます。
ChatGPTには、次のように依頼できます。
ChatGPTへのプロンプト例
ここまでの私の回答をもとに、後任者が判断に迷いそうな場面を整理してください。
「どのような状況か」「何を確認するか」「どう対応するか」「誰に相談するか」の4項目で表にしてください。
判断基準が曖昧な部分や、まだ決まっていないことは「要確認」としてください。
私が説明していない基準や対応方法を、新しく作らないでください。
ChatGPTの出力例
| 状況 | 確認すること | 対応方法 | 相談先 |
|---|---|---|---|
| 売上データに空欄がある | 元データの登録状況 | 要確認 | 要確認 |
| 前週から売上が大きく変動した | 元データと変動理由 | 原因を確認する | 不明な場合は営業マネージャー |
| 報告期限に間に合わない | 遅延理由と提出見込み | 要確認 | 要確認 |
※架空の回答をもとにした整理例です。
ここまで整理すると、単なる作業手順だけでは見えなかった情報が明らかになります。
ただし、ChatGPTの質問がすべて必要とは限りません。
実際には起こらない状況や、すでに別のルールで決まっていることもあります。
AIの質問をきっかけに考え、必要な内容を自分で確かめて残すことが大切です。
こうして、担当者の頭の中にあった判断基準や注意点を、後任者にも伝えられる情報に変えていきます。
次は、ここまで整理した内容を一つの引き継ぎ資料にまとめます。
今回のように後任者の立場から考える方法は、引き継ぎ以外の仕事にも応用できます。
以下の記事では、現場担当者や顧客など、異なる立場から考えを広げる方法を紹介しています。

ステップ③ 引き継ぎ資料にまとめ、後任者と確かめる

業務の目的や流れ、判断基準まで整理できたら、いよいよ引き継ぎ資料にまとめます。
ここまでのステップで、必要な情報はかなり明確になっているはずです。
あとは、後任者が理解しやすい順番に並べていきます。
ただし、資料が完成したからといって、引き継ぎが終わったわけではありません。
大切なのは、後任者がその資料を使って、実際に仕事を進められることです。
ChatGPTで読みやすい資料に整理する
引き継ぎ資料は、情報が多ければよいというものではありません。
必要な情報が、必要なときに見つかることが大切です。
例えば、作業を始める前には業務の目的や全体像を確認できる。
実際の作業中には、手順を見ながら進められる。
迷ったときには、判断基準や確認先を調べられる。
そんな資料を目指しましょう。
ChatGPTには、次のように依頼できます。
ChatGPTへのプロンプト例
これまで整理した業務情報をもとに、後任者向けの引き継ぎ資料を作成してください。
【ここにステップ①と②で整理した内容を貼り付ける】
次の構成でまとめてください。
- 業務の目的
- 業務の全体像(いつ・誰が・何をするか)
- 必要な情報や使用する資料
- 具体的な作業手順
- 成果物と受け渡し先
- 判断基準と注意点
- 例外的な対応方法
- 不明点があるときの確認先
初めて担当する人にもわかるように、簡潔で具体的な文章にしてください。
入力情報にない手順やルールは推測で補わず、「要確認」と記載してください。
最後に、資料を完成させるために不足している情報を一覧にしてください。
ChatGPTの出力例(一部)
架空の週次売上集計業務なら、次のような資料になります。
| 項目 | 引き継ぎ内容 |
|---|---|
| 業務名 | 週次売上集計業務 |
| 目的 | 売上の進捗を把握し、必要な対応を判断する |
| 実施日 | 毎週金曜日 |
| 担当者 | 要確認 |
| 使用データ | 売上データ(取得方法は要確認) |
| 成果物 | 週次売上報告書 |
| 共有先 | 営業マネージャー |
| 注意点 | 売上が大きく変動した場合は元データを確認する |
| 判断に迷ったとき | 営業マネージャーに相談する(対象となる状況は要確認) |
これは資料の概要部分です。
実際には、この後に具体的な作業手順や例外対応を続けます。
ここで気をつけたいのは、ChatGPTが作った文章を、そのまま完成版にしないことです。
内容に誤りがないか。
説明が不足しているところはないか。
実際の業務ルールと違っていないか。
一つずつ確認しましょう。
特に「要確認」となっている項目は、関係者に確かめてから埋めていきます。
後任者に実際に使ってもらい修正する
資料ができたら、後任者に見てもらいましょう。
できれば、説明を聞くだけでなく、実際の業務を資料に沿って進めてもらうのが効果的です。
その際に確認したいのは、次のようなことです。
- 何のための仕事か理解できたか
- 必要なデータや資料を自分で見つけられたか
- 手順を見ながら作業を進められたか
- 判断に迷ったとき、確認すべきことがわかったか
- 成果物を誰に、どのように渡せばよいかわかったか
もし途中で質問が出たら、それは資料を改善する手がかりになります。
前任者にとっては当たり前でも、後任者には説明が必要だったということです。
質問された内容や、作業が止まった箇所を記録して、引き継ぎ資料に反映しましょう。
例えば、後任者から「売上データは、どの画面から取得するのですか?」と質問されたとします。
その場合は、データの取得場所や操作方法を追記します。
また、「この数字が違っていたら、誰に確認するのですか?」と聞かれたなら、確認先や判断基準を見直します。
こうした修正を重ねることで、資料は少しずつ使いやすくなっていきます。
もちろん、重要な判断が必要な業務では、
後任者にいきなり単独で作業させるのではなく、前任者や責任者が確認しながら進めることが必要です。
引き継ぎ資料は、作って終わりではなく、使いながら確かめるものです。
ChatGPTは、情報の整理や資料の作成を助けてくれます。
しかし、引き継ぎができたかどうかを判断するのは、実際に仕事をする人間です。
ChatGPTで引き継ぎ資料を作るときの注意点
ChatGPTを使えば、業務の整理や引き継ぎ資料の作成を進めやすくなります。
ただし、会社の業務情報を扱うため、いくつか注意しておきたいことがあります。
機密情報や個人情報を安易に入力しない
引き継ぎ資料には、顧客情報や取引先の情報、社内の業務ルールなどが含まれることがあります。
こうした情報を、許可なくChatGPTへ入力してはいけません。
まずは、会社のAI利用ルールを確認し、認められた環境と範囲で利用しましょう。
必要に応じて、会社名や個人名、具体的な数値を伏せ、一般化した内容で業務を整理する方法もあります。
ただし、名前を伏せるだけでは、情報を特定できる場合もあります。
匿名化や抽象化をしても、社内ルールで認められていない情報は入力しないようにしましょう。
AIが作成した内容を必ず確認する
ChatGPTは、業務の目的や判断基準を質問したり、情報を整理したりすることはできます。
しかし、実際の社内ルールや担当者同士の取り決めを、すべて知っているわけではありません。
もっともらしい手順や判断基準を示しても、それが正しいとは限りません。
特に、承認手続きや例外対応などは、担当者や責任者による確認が欠かせません。
AIには整理を手伝ってもらい、内容の正しさは人間が確かめる。
この役割分担を忘れないようにしましょう。
AIに判断を任せるのではなく、自分で判断するための材料を整理する。
この考え方については、以下の記事でも詳しく紹介しています。

まとめ|後任者が自分で仕事を進められる引き継ぎを
引き継ぎ資料で大切なのは、作業手順を詳しく書くことだけではありません。
その仕事は何のために行うのか。どのような流れで進め、何を成果物として誰に渡すのか。
さらに、想定外のことが起きたとき、何を基準に判断すればよいのか。
こうした情報があって初めて、後任者は仕事の全体像を理解できます。
今回は、ChatGPTを使った3つのステップを紹介しました。
- 業務の目的と、仕事の入口から出口までを整理する
- 後任者の立場で抜け漏れを確認する
- 引き継ぎ資料にまとめ、後任者と確かめる
ChatGPTは、情報を整理したり、自分では気づかなかった疑問を投げかけたりしてくれます。
しかし、業務の目的を確かめ、判断基準を決め、実際に引き継げたかを確認するのは人間です。
私が業務改革で大切にしてきたのも、
一人ひとりが仕事の目的を理解し、自分で考えて行動できることでした。
引き継ぎも、そのための大切な機会だと思います。
作業を引き継ぐだけでなく、仕事を理解して引き継ぐ。
そんな視点で、まずは一つの業務から整理してみてはいかがでしょうか。

