目の前で起きていることを、ただ並べるだけならそれほど難しくありません。
難しいのは、そこから共通点を見つけることです。
たとえば仕事で、
- 同じ情報を何度も入力している
- 部門ごとに情報が分かれている
- 承認に時間がかかっている
- 担当者しか分からない仕事がある
といった問題が起きていたとします。
一つひとつを見ると、別々の問題に見えます。
けれど少し視点を上げると、
「情報や業務が分断されている」
という共通点が見えてくることがあります。
このように、複数の具体的な出来事から共通点やパターンを見つけ、一段上の考え方へまとめていくのが抽象化です。
ただ、抽象化は経験に左右されやすい思考でもあります。
似た問題を何度も見てきた人なら、
「これは以前のケースと似ている」
「本当の問題は別のところにあるのではないか」
と気づきやすくなります。
一方で、経験が増えるほど、いつもの見方に引っ張られることもあります。
そこで使えるのがAIです。
AIに抽象化を任せるのではありません。
自分では思いつかなかった共通点や切り口を増やし、抽象化する範囲を広げる。
今回は、AIを使って抽象化力を広げる方法を考えてみます。
抽象化は、経験に左右されやすい思考

抽象化というと、難しい言葉を使って考えることのように感じるかもしれません。
でも実際には、
「これは、前にも似たことがあった」
と気づくところから始まります。
私もBPRの仕事をしていたとき、似た経験を何度もしました。
部署も担当者も違う。
起きている問題も違う。
それでも、いくつもの現場を見ていると、
「情報の受け渡しに問題がある」
「業務が部門ごとに分断されている」
「判断が一か所に集中している」
といった共通した構造が見えてきます。
経験が増えるほど、具体と具体の間にある共通点を見つけやすくなります。
だから抽象化には、経験やノウハウの差が出ます。
ただし、経験が多ければいいわけでもありません。
経験を積むほど、
「このパターンなら、こうだろう」
という見方も強くなります。
過去にうまくいった方法。
得意なフレーム。
慣れた切り口。
これらは強みですが、同時に思考の癖にもなります。
そこでAIを使う意味が出てきます。
経験が少ない人には、考えるための切り口を補う。
経験がある人には、慣れた見方の外側を見せる。
AIは、
抽象化の答えを出す相手ではなく、抽象化するときに選べる視点を増やす相手
として使えるのです。
AIを使うと、抽象化の「候補」を増やせる
抽象化するときに難しいのは、
どこを共通点として見るか
を決めることです。
同じ事実を見ても、
「情報の問題」
と見る人もいれば、
「業務プロセスの問題」
「人の役割の問題」
「意思決定の問題」
と見る人もいます。
どれか一つだけが正解ではありません。
大切なのは、
どの切り口で見ると、問題をよりよく理解できるか
です。
ここでAIが役立ちます。
具体的な事実を渡して、
「これらに共通する問題を、違う角度から考えてください」
と聞けば、
情報の流れ。
人の役割。
業務プロセス。
意思決定。
顧客視点。
システム。
といった複数の見方を出してくれます。
自分一人で考えていると、どうしても普段使っている見方に寄ります。
AIを入れることで、
「こんなまとめ方もできるのか」
という候補を増やせます。
ただし、AIが出したものを、そのまま「本質」と考える必要はありません。
AIがしているのは、あくまで候補を増やすこと。
どの切り口が現実に合っているかを判断するのは、自分です。
抽象化そのものの考え方や、
具体と抽象を往復しながらコンセプトを磨く方法については、別の記事で詳しくまとめています。

AIで抽象化力を広げる3つのステップ

AIを使って抽象化するときも、最初から答えを聞く必要はありません。
私なら、
具体を見る
→ AIで切り口を増やす
→ 自分で意味を選ぶ
という順番で考えます。
1.まず具体的な事実を並べる
最初にするのは、抽象化ではありません。
まず、
何が起きているのかを具体的に見ること
です。
たとえば仕事なら、
- どこで止まっているのか
- 何が繰り返されているのか
- 誰が困っているのか
- どんな手戻りがあるのか
- どこに時間がかかっているのか
といった事実を並べます。
この段階で、
「これは組織の問題だ」
「情報共有が悪い」
とまとめすぎないことも大切です。
たとえば、
「担当者が同じ数字を3回入力している」
「承認のたびに紙を回している」
「別部署に電話して確認している」
「担当者が休むと処理が止まる」
というように、できるだけ具体のまま置いてみます。
AIに渡す材料も、具体的なほうが使いやすくなります。
具体が薄いまま抽象化すると、一般論になりやすい。
まず現実を見る。
ここが出発点です。
抽象化の前には、まず事実をできるだけ具体的に見る必要があります。
AIを使って「何を見るか」を増やす方法は、こちらの記事で紹介しています。

2.AIに複数の共通点や切り口を出してもらう
具体が並んだら、AIを使います。
このとき、
「本質は何ですか」
と一つの答えを求めるより、
複数の切り口を出してもらう
ほうが有効です。
たとえば、
「これらの事実に共通する問題を、違う角度から5つ考えてください」
と聞いてみます。
さらに、
「現場担当者から見るとどうか」
「管理職から見るとどうか」
「顧客から見るとどうか」
と視点を変えてもいいでしょう。
あるいは、
「別の業界ならどう捉えるか」
と聞いてみる方法もあります。
目的は正解を出してもらうことではありません。
自分だけでは思いつかなかった見方を増やすこと。
10個出てきても、その中に一つ、
「この切り口はなかった」
と思えるものがあれば十分です。
3.自分で共通点を選び、具体へ戻して確かめる
最後は、自分で考えます。
AIが出した候補の中から、
どれが現実をいちばんよく説明しているか
を見ます。
たとえば、
「情報の分断」
という切り口が出たとします。
そこで終わらず、もう一度具体へ戻ります。
同じ数字を何度も入力しているのは、情報がつながっていないからなのか。
電話で確認しているのも、必要な情報が見えないからなのか。
担当者が休むと止まるのも、情報が人の中に閉じているからなのか。
複数の具体を一つの考え方で説明できるなら、その抽象化は使える可能性があります。
さらに、
「では、どういう状態になればよいか」
まで考えます。
たとえば、
必要な情報が一度入力されれば、その後の業務につながっていく状態
というコンセプトが見えてくるかもしれません。
抽象化して終わるのではなく、具体へ戻す。
ここまでやって、初めて次の行動につながります。
共通点を探す前に、違いや原因を分けて考える必要があることもあります。
AIで分析の方法そのものを増やす使い方は、こちらの記事でまとめています。

事例|複数の業務問題から共通するコンセプトを探す
実際の仕事をイメージしてみます。
ある業務で、
- 同じ情報を複数のシステムに入力している
- 部門ごとにデータを持っている
- 承認に時間がかかる
- 担当者しか分からない作業が多い
- 問い合わせのたびに別部署へ確認している
という問題があったとします。
以前の私なら、まずBPRの経験から共通点を探していました。
今なら、そこにAIを加えられます。
具体的な問題をそのまま渡し、
「これらの問題に共通する背景を、違う観点から考えてください」
と聞きます。
すると、
- 情報が分断されている
- 業務プロセスがつながっていない
- 意思決定が一部に集中している
- 人に情報やノウハウが閉じている
- 部門単位で最適化されている
といった見方が出てくるかもしれません。
ここから、
「情報と業務が分断されている」
という見方を選んだとします。
すると、
同じ情報を何度も入力する。
別部署へ確認する。
担当者が休むと止まる。
といった個別の問題が、一つの方向から見えてきます。
そこから、
「情報と業務をつなぐ」
という解決の方向をつくれます。
さらに、
「必要な情報を一度入れれば、その後の業務につながっていく」
というコンセプトにすれば、
入力を減らす。
システムを連携する。
承認方法を変える。
人の役割を見直す。
といった個別施策も、一つの方向へそろえやすくなります。
AIがコンセプトを決めたわけではありません。
経験から出てきた自分の仮説に、別の切り口を加えた。
その中から、自分で使える考え方を選んだのです。
問題を抽象化する前に、要素同士がどうつながっているかを見ることも重要です。
複雑な問題を「関係」から捉えたいときは、こちらの記事が参考になります。

経験がある人ほど、AIで違う切り口に出会える

AIによる思考支援というと、経験が少ない人を助けるものと思われがちです。
もちろん、それも大きな価値です。
ただ私は、
経験がある人ほど、AIを使う意味もある
と思っています。
経験を重ねると、自分なりの型ができます。
私もBPRの仕事を続ける中で、
情報の流れを見る。
業務のつながりを見る。
人の役割を見る。
判断がどこで止まっているかを見る。
といった見方が身についていきました。
これは経験から得た強みです。
一方で、その型が強くなるほど、いつも同じところを見ることもあります。
そこでAIに別の切り口を出してもらう。
自分は「業務の流れ」から見ていたけれど、AIは「顧客体験」から見る。
自分は「情報の分断」と考えたけれど、AIは「意思決定の遅れ」と見る。
そこから、
「その見方はなかった」
という発見が生まれます。
AIの価値は、経験を置き換えることではありません。
経験で深く考え、AIで視野を広げる。
この組み合わせによって、自分の経験を生かしながら、その外側にある考え方にも触れられます。
AIで抽象化するときに気をつけたいこと
最後に、3つだけ気をつけたいことがあります。
AIのまとめを正解にしない
AIは、もっともらしい言葉を簡単に出します。
「組織課題」
「コミュニケーション不足」
「全体最適」
といった言葉は、多くの問題に当てはまります。
大切なのは、
そのまとめ方で、本当に具体的な問題を説明できるか
を見ることです。
具体を十分に渡す
「この問題の本質は何ですか」
とだけ聞けば、一般的な答えになりやすくなります。
誰が。
どこで。
何をして。
どこで止まっているのか。
事実が具体的なほど、AIから返ってくる切り口も使いやすくなります。
最後は具体へ戻す
「情報の分断」
「全体最適」
という言葉だけでは、何も変わりません。
では何を変えるのか。
誰がどう動くのか。
どんな仕組みにするのか。
そこまで戻してみます。
抽象化は、具体から離れるためではなく、より良い具体へ戻るために使うもの。
AIを使う場合も同じです。
まとめ
抽象化では、
何を共通点として見るか。
どの切り口を選ぶか。
どこまで抽象度を上げるか。
といったところに、経験やノウハウの差が出ます。
そこでAIを使います。
流れにすると、
具体を見る
→ AIで切り口を増やす
→ 共通点を選ぶ
→ コンセプトにする
→ 具体へ戻して確かめる
という形です。
経験が少ない人には、見えていなかった切り口を補ってくれます。
経験がある人には、慣れた見方から外へ出るきっかけをくれます。
ただし、AIが人間の代わりに抽象化するわけではありません。
どの見方が現実に合うのか。
どのコンセプトを使うのか。
最後に決めるのは自分です。
経験を置き換えるのではなく、経験だけでは見えなかった視点を加える。
AIを答えを出す道具として使うだけではなく、
自分の思考の範囲を広げる相手として使う。
それが、AIで抽象化力を広げるということだと思います。

