BPRのプロジェクトを担当していた頃、
私は、まったく異なる分野の部署へ異動になったことがあります。
そこで依頼されたのは、
基幹システムの再構築
でした。
ただ、業務をまったく知らない自分に、いきなりシステムの再構築はできません。
まず必要だったのは、
仕事そのものを知ること
でした。
誰が、何を、どのように進めているのか。
どこで仕事が止まり、どんな問題が起きているのか。
そのため、
担当者へのヒアリングだけでなく、
実際の仕事を見る。
打ち合わせに出る。
節目となる会議にも参加する。
できるだけ現場に入り、仕事の流れを一つずつ見ていきました。
その結果、
異動してきたばかりだった私が、
いつの間にか、その部署の中でも、
仕事全体のつながりをかなり把握している人
になっていました。
この経験から、
何かを考えたり変えたりするときには、
まず現実をよく見ることが大切だと感じています。
当時は、
「次にどこを見るか」も、自分の経験を頼りに考えていました。
でも、今ならどうするだろう。
AIとの対話を使えば、
自分では思いつかなかった観察の視点も加えられるかもしれない。
そう考えるようになりました。
この記事では、
AIに観察を任せるのではなく、
自分の観察する範囲を広げるために、AIをどう使えるのか
を考えていきます。
観察力とは「よく見る力」だけではない

観察力というと、
細かなところまで見る力。
小さな変化に気づく力。
そんなイメージがあるかもしれません。
ただ、実際には、
どこに注意を向けるか
によって、見えてくるものは変わります。
同じ会議でも、
発言内容を見る人。
参加者の表情を見る人。
話が止まる場面を見る人。
誰が決めているのかを見る人。
集める事実が違えば、
そのあとに考えることも変わります。
以前の記事では、
観察力を、
先入観や評価を急がず、目の前の事実、違い、変化を捉える力
として整理しました。
事実と解釈を分ける。
いつもとの違いを見る。
気づいたことを言葉にする。
こうした観察の基本は、以下の記事で詳しく紹介しています。

今回考えたいのは、
その前にある、
「そもそも、どこを見るのか」
という部分です。
人は、自分の経験や知識を通して物事を見ます。
それは強みでもあります。
一方で、
自分が見ようとしていないものには、なかなか気づけません。
ここに、AIを使う余地があります。
AIを入れると、「見る場所」が広がる
AIに、
「原因は何ですか」
と聞けば、
すぐに答えらしきものは返ってきます。
けれど、それでは、
観察する前に結論へ進んでしまいます。
今回使いたいのは、
そういう使い方ではありません。
自分が見た事実を出したうえで、
「ほかに、どこを見るとよいだろう」
と聞く。
すると、
自分では思いつかなかった観察ポイントが増えてきます。
たとえば会議なら、
誰の発言のあとに話が止まるのか。
質問が出るタイミングはいつか。
同じ論点に戻るきっかけは何か。
誰が決定事項を確認しているのか。
こうした候補です。
AIが出したものを、そのまま事実だと思う必要はありません。
AIが増やしているのは、
答えではなく、観察する場所の候補
だからです。
本当にそうなっているかは、
現実に戻って確かめます。
AIで観察力を広げるとは、
AIに現場を見てもらうことではありません。
自分一人では思いつかなかった「見る場所」を増やすこと。
そう考えると、
AIは観察の代わりではなく、
観察の範囲を広げる相手として使えます。
AIで観察力を広げる3つのステップ

AIを観察に使うときは、
最初から原因を聞かないことが大切です。
まず自分で見る。
次にAIで見る場所を増やす。
最後に、もう一度現実を見る。
この順番で進めます。
1.まず、自分が見た事実を出す
たとえば、
ある仕事で「手戻りが多い」とします。
そこで、
「確認不足が原因だ」
「担当者のミスが多い」
と決めるのではなく、
まず実際に起きていることを出します。
- 同じ資料が何度も修正されている
- 後工程から差し戻されることがある
- 担当者が途中で何度も確認している
- 特定の場面で作業が止まっている
ここでは、
原因を考える必要はありません。
まず、
自分は何を見ていたのか
を確認します。
この順番は意外と大切です。
最初からAIに、
「この仕事の問題点を教えてください」
と聞けば、
AIはさまざまな可能性を出してくれます。
ただ、それを先に見ると、
今度はその答えに合うものを現場から探してしまうことがあります。
「確認不足かもしれない」
と言われれば、
確認が足りない場面ばかり目に入る。
「情報共有が問題かもしれない」
と言われれば、
情報が伝わっていない場面を探してしまう。
これでは、
AIが出した仮説を確かめるところから、観察が始まってしまいます。
だから先に、
自分が実際に見た事実を出します。
何が起きていたのか。
どこで止まっていたのか。
何が繰り返されていたのか。
一度、現実に戻る。
そのうえでAIを使うと、
自分が見ていた範囲と、
AIによって加わった視点を分けて考えやすくなります。
2.AIで「ほかに何を見るか」を増やす
次に、
自分が見た事実をAIに渡して、
この仕事をもう少し観察するとしたら、ほかにどこを見るとよいでしょうか
と聞きます。
すると、
たとえば、
- 必要な情報が、どの時点でそろっているか
- 差し戻しの理由は毎回同じか
- 担当者によって確認方法が違うか
- 前工程と後工程で判断基準が一致しているか
- 手戻りが起きる案件と、起きない案件に違いがあるか
といった候補が出てきます。
ここが、
AIを使う意味の大きいところです。
自分一人で考えていると、
どうしても過去の経験から、
「こういうときは、ここを見る」
という場所が決まってきます。
経験があることは強みです。
けれど、
自分が経験していない見方は、
候補にすら上がらないことがあります。
AIとの対話を入れると、
その外側にある視点を増やせます。
ただし、
全部を見る必要はありません。
観察ポイントが10個出てきたからといって、
10個すべてを確かめようとすると、
今度は注意が散ってしまいます。
その中から、
「自分はそこを見ていなかった」
と思うものを一つか二つ選びます。
たとえば、
「前工程と後工程で、判断基準が一致しているか」
という視点です。
ここでのAIの役割は、
観察項目を網羅することではありません。
自分の視線を少しずらすこと。
それまで見ていた世界に、
もう一つ別の窓をつくる。
そのくらいの使い方が、
観察には合っていると思います。
3.現実をもう一度見て確かめる
次は、
選んだ観察ポイントを持って、
実際の仕事をもう一度見ます。
たとえば、
前工程と後工程の判断基準を見ることにしたとします。
すると、
前工程では、
「必要な情報が入力されていれば完了」
と考えている。
一方、
後工程では、
「その情報を使って判断できる状態なら完了」
と考えている。
そんな違いが見えてくるかもしれません。
ここで初めて、
最初には見えていなかった事実が増えます。
AIに聞いた段階では、
「判断基準が違うかもしれない」
という観察候補にすぎませんでした。
実際に見ることで、
初めて、
「本当に違っていた」
あるいは、
「そこには違いがなかった」
とわかります。
どちらでも構いません。
観察では、
AIの予想が当たることが目的ではないからです。
大切なのは、
それまで見ていなかった場所を、実際に見たこと
です。
そして、
ここでもまだ、
「判断基準の違いが手戻りの原因だ」
と決める必要はありません。
それは次の段階です。
観察では、
何が起きているのか。
どんな違いがあるのか。
どこに変化があるのか。
そこまでを丁寧に集めます。
そのあと、
分けて比較すれば分析になります。
要素同士の関係を考えれば、構造把握につながります。
さらに、
本当に変えるべきものは何かと考えれば、洞察へ進みます。
観察の役割は、
その前にある材料を増やすこと
です。
だから、
AIで観察力を広げる流れは、
自分で見る
→ AIで見る場所を増やす
→ もう一度、自分で見る
になります。
最初も最後も、人間です。
AIはその途中で、
自分一人では思いつかなかった視点を加える役割を持ちます。
観察して集めた事実を、分けたり比べたりしながら違いや特徴を見る段階が「分析」です。
分析力の鍛え方はこちらの記事で紹介しています。

1分ワーク|次に見る場所を一つ増やす
最近、
「少し気になる」
と感じた出来事を一つ選んでください。
仕事でも、
人とのやり取りでも構いません。
そして、次の3つを試します。
1.自分が見た事実を3つ書く
まず、
実際に見たことだけを書きます。
原因や評価は入れません。
「何が起きていたか」
だけを短く残します。
2.AIに「ほかに何を見るか」を聞く
次に、
その事実をAIに渡して、
次にこの状況を観察するとしたら、ほかにどんな点を見るとよいでしょうか
と聞いてみます。
候補が出てきたら、
その中から、
「自分はそこを見ていなかった」
と思うものを一つ選びます。
3.次に、その一つだけを見る
次に同じような場面があったら、
選んだポイントを一つだけ意識して観察します。
大きな発見をしようとしなくて構いません。
これまでとは違う場所を一つ見る。
それだけでも、
集まる事実は変わります。
まとめ|AIで「見る場所」を広げる
観察力は、
目の前を細かく見る力だけではありません。
どこを見るか
によって、
得られる事実も変わります。
私はBPRの現場で、
実務や打ち合わせ、会議を見ながら、
少しずつ仕事全体を理解していきました。
当時は、
次に何を見るかも、
自分の経験を頼りに考えていました。
今なら、
そこにAIとの対話を加えられます。
まず、自分で見る。
AIで、
「ほかに何を見るか」を増やす。
そして、
もう一度、自分で現実を見る。
AIに観察を任せるのではなく、
自分一人では思いつかなかった観察の視点を増やす。
それが、
AIで観察力を広げる使い方だと思います。
観察で集めた事実は、
そのあとの分析や構造把握、洞察を支える材料になります。
だからこそ、
答えを急ぐ前に、
まず見る。
そして、
見る場所を一つ増やしてみる。
そこから、
思考の広がりが始まります。
観察した事実や関係から、
さらに「本当に変えるべきものは何か」まで考えたいときは、AIで洞察を深める方法へ進めます。


