通勤電車の中で、ふと考えたことがあります。
もし、明日からスマホが使えなくなったらどうなるだろう。
最初に浮かんだのは、不便になるということでした。
連絡が取りにくくなる。
地図をすぐに見られない。
分からないことを、その場で調べられない。
けれど、少し考え続けていると、別の面も見えてきました。
電車の中で本を読む時間が増えるかもしれない。
分からないことを、人に尋ねる機会が増えるかもしれない。
何も見ずに、ただ考える時間が戻ってくるかもしれない。
一方で、スマホがなくなれば本当に読書や会話が増えるのか、とも思いました。
別の画面を見る時間が増えるだけかもしれません。
連絡が減り、かえって人と会う機会が少なくなる可能性もあります。
そう考えると、大切なのはスマホがあるかないかではなく、
便利さによって生まれた時間を何に使うかではないか、と見方が変わりました。
このように、現実とは異なる条件を頭の中に置き、
その先に起こることを考える方法を「思考実験」といいます。
思考実験は、単に「もしも」と想像するだけではありません。
自分なりの仮説を置き、条件や立場を変え、反対の可能性から見直すことで、考えを深めていく方法です。
この記事では、思考実験とは何かを整理し、日常の中で考える力を鍛える5つのステップを紹介します。
思考実験は、一つの問いから始まります。
考えを広げやすい問いの作り方は、こちらの記事で詳しく紹介しています。

思考実験とは?

思考実験とは、現実とは違う条件を頭の中に置き、その状況で何が起こるかを考える方法です。
たとえば、
「もし使える時間が半分になったら」
「もし自分が相手の立場だったら」
「もし今の仕事がなくなったら」
と問いを立て、その先に起こりそうなことを考えていきます。
科学や哲学の世界でも使われてきた方法ですが、難しいテーマだけのものではありません。
仕事や暮らしの中にある、身近な問いからでも始められます。
空想との違いは、筋道立てて考えること
思考実験と空想は、どちらも現実にはない状況を想像します。
ただし、思考実験では「面白そう」で終わらず、その条件から何が起こるかを考えます。
たとえば、
「もし人が自由に空を飛べたら」
という問いから、
移動手段はどう変わるか。
どんなルールが必要になるか。
と結果をつなげていくと、思考実験になります。
大切なのは、変わった問いを思いつくことではありません。
何が起こるのか。
なぜそうなるのか。
別の結果もあり得るのか。
と考えを進めることです。
正解を当てることが目的ではない
思考実験には、多くの場合、一つの正解がありません。
同じ問いでも、立場や経験、価値観によって答えは変わります。
だからこそ、
なぜそう考えたのか。
どんな前提を置いているのか。
ほかの可能性はないのか。
と考え続けることに意味があります。
思考実験とは、未来を正確に予測する方法ではありません。
自分の考えをいったん形にし、別の可能性から見直すための方法なのです。
思考実験で考える力が鍛えられる理由
思考実験では、一つの仮定を置くことで、普段は意識していない前提や、自分の考え方の癖が見えてきます。
1.当たり前の前提を外せる
私たちは、スマホが使える、今の仕事がある、毎月同じくらいの収入が入るといった前提の中で暮らしています。
そこで、
「もしスマホが使えなかったら」
「もし時間が半分しかなかったら」
と条件を変えてみます。
すると、本当に必要なものや、惰性で続けていることが見えてきます。
思考実験は、当たり前を否定するのではなく、その外側にある可能性へ目を向ける方法です。
2.複数の可能性を比べられる
問いを立てると、最初に浮かんだ答えを正しいと思いやすいものです。
たとえば、
「在宅勤務を増やせば、生産性が上がる」
と考えたとします。
通勤時間が減る一方で、相談や情報共有が難しくなる可能性もあります。
そこで、
どんな条件なら効果があるのか。
どんな場合には問題が起こるのか。
と比べます。
一つの答えに決めつけず、条件による違いを考えることで、物事を単純な「良い・悪い」だけで判断しにくくなります。
3.自分の思い込みや価値観に気づける
思考実験の答えには、その人が大切にしているものが表れます。
「もし収入が半分になったら、何を残すか」という問いでも、趣味、住環境、自由な時間など、優先するものは人によって違います。
また、
「自分には向いていない」
「この方法しかない」
と思っていたことも、条件や立場を変えれば、別の見方ができるかもしれません。
考える力とは、知識を増やすことだけではありません。
前提を外し、複数の可能性を比べ、自分の考えを見直す力でもあります。
思考実験は、その力を身近な問いから育てる方法です。
思考実験以外にも、観察、問い、振り返りなど、日常でできる思考トレーニングがあります。
考える力を鍛える方法の全体像は、こちらの記事でまとめています。

思考実験を深める5つのステップ

思考実験は、「もしも」と考えるだけでも始められます。
ただし、最初に浮かんだ答えだけで終わると、単なる想像や予想になりがちです。
そこで、次の5つのステップで考えを深めていきます。
1.問いを立てる
まず、現実の条件を少し変えて問いを作ります。
たとえば、
「もし使える時間が半分になったら」
「もし自分が相手の立場だったら」
「もし今の仕事がなくなったら」
といった問いです。
ここでは、
もし1週間、スマホが使えなくなったら、生活はどう変わるだろう。
と考えてみます。
難しいテーマを選ぶ必要はありません。
日常の中で気になったことや、少し違和感を覚えたことから始めれば十分です。
思考実験の問いは、日常で見つけた小さな違和感からも生まれます。
事実や変化を丁寧に捉える観察力の鍛え方はこちらで紹介しています。

2.仮説を一つ置く
次に、問いに対する仮の答えを作ります。
スマホの例なら、
スマホが使えなくなれば、読書や人との会話に使う時間が増えるのではないか。
と考えられます。
仮説は、正しい答えではありません。
「たぶん、こうなるのでは」と、考え始めるための足場を置くものです。
仮説があるからこそ、
「なぜそう思うのか」
「本当にそうなるのか」
と、さらに考えを進められます。
3.結果と条件を考える
仮説を置いたら、その先に何が起こるかを考えます。
スマホを見る時間が減る。
本を読む時間が増える。
分からないことを人に尋ねる。
会話が増える。
このように、変化の先をつなげていきます。
同時に、条件も変えてみます。
1日だけ使えない場合と、1年間使えない場合ではどう違うか。
自分だけが使えない場合と、社会全体で使えない場合ではどう違うか。
条件を変えると、最初の仮説が成り立つ範囲が見えてきます。
4.別の立場と反対の可能性から見直す
次に、自分とは違う立場から考えます。
スマホが仕事に欠かせない人。
遠くの家族と連絡を取る人。
高齢の家族を見守っている人。
こうした人にとっては、スマホが使えないことは、単なる不便では済まないかもしれません。
さらに、最初の仮説と反対の可能性も考えます。
スマホが使えなくても、読書や会話は増えないのではないか。
スマホの代わりにテレビを見るかもしれない。
連絡が減り、人との交流も少なくなるかもしれない。
こうして考えると、
スマホがなくなれば生活が豊かになる
のではなく、
空いた時間を何に使うかによって変わる
と、仮説を修正できます。
反対の可能性を考えることは、自分の意見を否定することではありません。
見落としていた条件を加え、考えを具体的にするための作業です。
自分の考えを少し離れたところから眺めるには、メタ認知の視点も役立ちます。
自分の思考の癖や偏りに気づく方法は、こちらの記事で紹介しています。

5.対話や小さな行動で確かめる
最後に、可能であれば、誰かと話したり、小さく試したりします。
人に話すときは、
「なぜそう思うのか」
「別の立場ならどう見えるか」
「反対の結果になるとしたら、どんな場合か」
と問い返してもらいます。
一人で考えたい場合は、ノートに書いたり、AIに別の視点を出してもらったりする方法もあります。
現実で確かめられる問いなら、小さく試してみましょう。
たとえば、夕方の1時間だけスマホを別の部屋に置く。
その結果、
本当に読書時間が増えたか。
気持ちは落ち着いたか。
別のことに時間を使っただけではないか。
を振り返ります。
思考実験は、最初の答えを守るためのものではありません。
問いを立て、仮説を置き、条件や立場を変えながら考え直す。
その流れによって、単純だった考えが、少しずつ具体的で柔軟なものへ変わっていきます。
AIを答えを出す道具ではなく、反対意見や別の視点を出してくれる「考える相手」として使う方法は、こちらの記事で紹介しています。

日常で使える4つの思考実験

思考実験は、身近な出来事に少し違う条件を加えるだけで始められます。
使いやすいのは、次の4つの型です。
1.未来を変える
時間を先へ進めて考える方法です。
「もし10年後、今の仕事がなくなっていたら」
「もし今の生活を5年間続けたら」
未来を正確に当てることが目的ではありません。
少し先から今を見ることで、今のうちに考えられることを見つけます。
2.制約を加える
時間、お金、人手、道具などをあえて減らして考えます。
「もし使える時間が半分になったら」
「もし予算が3分の1になったら」
制約を加えると、本当に必要なものや、優先すべきことが見えやすくなります。
3.立場を変える
自分とは違う立場から、同じ出来事を見直します。
「もし自分が顧客だったら」
「もし部下の立場だったら」
「もし初めて利用する人だったら」
自分には当たり前に見えることも、相手には違って見えるかもしれません。
立場を変えることで、見落としていた不便や不安に気づけます。
4.当たり前をなくす
普段あるものを、一度なかったことにして考えます。
「もしインターネットがなかったら」
「もし会議を開けなかったら」
「もし肩書がなかったら」
当たり前を外すと、その仕組みが本来何のためにあるのかが見えてきます。
たとえば、会議を開けないと考えると、
情報を共有する。
意見を集める。
判断する。
という目的ごとに、別の方法を考えられます。
4つの型は、組み合わせても構いません。
ただし、最初から問いを複雑にする必要はありません。
まずは一つの型を選び、普段とは違う角度から考えてみるだけで十分です。
今日から使える思考実験の問い
思考実験は、自分に関係のある問いほど考えやすくなります。
ここでは、仕事・生活・人生の3つに分けて、すぐに使える問いを紹介します。
仕事について考える問い
もし、自分が顧客だったら何を不便に感じるか
自分たちには当たり前になっている手順や説明も、初めて利用する人には分かりにくいかもしれません。
顧客の立場から考えると、見落としていた不便や改善点が見えてきます。
もし、会議の時間が半分になったら何を変えるか
何を事前に共有するか。
誰が参加する必要があるか。
今日決めることは何か。
時間に制約を加えると、会議の本当の目的が明確になります。
生活について考える問い
もし、自由に使える時間が1時間増えたら何をするか
本を読む。
運動する。
家族と話す。
何もしない時間を持つ。
この問いには、自分が本当は何に時間を使いたいのかが表れます。
もし、使えるお金が今の8割になったら何を残すか
何を減らすかだけでなく、何を残したいかを考えます。
制約を置くことで、自分にとって大切な支出と、惰性で続けている支出を分けやすくなります。
人生について考える問い
もし、10年後の自分が今を振り返ったら何と言うか
今の悩みや選択を、少し先の自分から見てみます。
時間の距離を置くことで、目の前の不安だけに引っ張られずに考えられます。
もし、年齢を理由にできなかったら何を始めるか
本当の障害は年齢なのか。
時間、体力、経験不足、失敗への不安など、別の条件が問題になっている可能性もあります。
漠然とした諦めを、具体的な課題へ変えるための問いです。
すべての問いに答える必要はありません。
今の自分が少し気になるものを一つ選び、
自分の仮説は何か。
反対の可能性はないか。
小さく確かめるなら何をするか。
と考えてみてください。
思考実験の価値は、特別な答えを出すことではありません。
一つの問いを通して、自分の前提や価値観を見直すことにあります。
1分でできる思考実験
今、気になっている出来事や悩みを一つ選び、次の3つを考えてみてください。
1.自分の仮説は何か
まず、
たぶん、こうなのではないか。
という仮の答えを一つ置きます。
たとえば、
行動できないのは、失敗が怖いからではないか。
という形です。
正解である必要はありません。
今の自分がどう考えているかを言葉にすることが大切です。
2.反対の可能性は何か
次に、最初の仮説とは違う説明を考えます。
本当に失敗が怖いのだろうか。
やりたいことが曖昧なだけではないか。
最初の一歩が大きすぎるのではないか。
自分の考えを否定するのではなく、見落としている条件がないかを確かめます。
3.小さく確かめるなら何をするか
最後に、考えたことを小さな行動へ変えます。
5分だけ試す。
一人に相談する。
一つだけ条件を変える。
翌日に結果を振り返る。
大きな決断は必要ありません。
小さく確かめることで、頭の中で考えたことと、実際に起きることの違いが見えてきます。
思考実験で浮かんだ問いや仮説を残したい方は、
問いを一つ書き、考えたことと気づきを記録する「問い日記」もおすすめです。

まとめ|思考実験は、考えを深める知的習慣
思考実験とは、現実とは違う条件を頭の中に置き、その先に何が起こるかを考える方法です。
「もしも」と想像するだけではありません。
問いを立てる。
仮説を置く。
結果や条件を考える。
別の立場や反対の可能性から見直す。
必要なら、小さく確かめる。
この流れを通して、最初は単純だった考えが、少しずつ具体的で柔軟なものへ変わっていきます。
考える力とは、すぐに正解を出す力だけではありません。
自分の前提に気づき、別の可能性を比べ、必要に応じて考えを修正する力でもあります。
まずは今日、気になることを一つ選び、
もし、前提が違っていたらどうなるだろう。
と問いかけてみてください。
その一つの問いが、今までとは違う見方を開いてくれるかもしれません。
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